かわいいゴーヤー!

 

今夏、東日本大震災の影響から、例年なく節電が叫ばれた。
  実際は関東圏に送電できるものではないにせよ、心はひとつ「がんばろう日本!」の精神で身近にできることからを始めてみよう、という真摯な思いがつのっていた。
  そこで思いついたのがグリーンカーテン。私の寝室は、西日を受けるところに位置していて、昼間は風を通していても、夏場は夜でもムーンと室内温度は相当高い。エアコンを入れて、快眠のための適正温度にするまで相当時間を費やす。グリーンカーテンなら、太陽光を遮断し外壁の断熱に役立つからエアコンを余計に運転させなくてもよいという節電効果もあり、僅かではあるが気化熱によりベランダの温度を下げてもくれる。それに見た目にも美しい、一石三鳥の優れもの。
とはいうものの、私は朝顔一つ植えたこともない園芸ド素人。まずは、ホームセンターの担当者にそのへんの不安をうちあけた。
「害虫に強いゴーヤなら、水やりくらいですからどなたでも上手に育てられますよ。プランターがあれば、種とネットだけ購入してもらえればいいですし。」
初期投資も500円程度で、手間もかからず(?!)節電できる。こんなにありがた話はない、と早速、種と2メートル角のネットを購入して帰った。
 プランターは、母親が屋上で家庭菜園のネギを植えていたらしきものを拝借。若干数残ったネギは抜くのもかわいそうに思えて、そのまま残してゴーヤの種をばらまいた。プランターの場所は、西向きのサッシを隠せる位置のベランダに配置した。水もたっぷりやった。
 ところが、私の思いとは裏腹に待てど暮らせど、芽はでてこない。5日がたち、1週間が過ぎ、10日がたっても全く反応なし。
「種が土の中で腐ってるんじゃないの。」
水やりだって、私にしては珍しく三日以上続いている。太陽か?水か?いやいや、十分。愛情か?自問自答を繰り返す日々。
 ようやく希望の芽をだしてくれたのは二週間も過ぎたころだった。待ちに待っただけにその小さなゴーヤの芽が愛おしく愛情は増すばかりだった。水やりも妻にまかせることなく続けた。いったん芽が出てからは、茎は細いがツルの成長は急速だった。
 ある朝、私はゴーヤの逞しさに驚愕してしまった。それは、なんと!一緒にプランターに生えていたネギに巻き付いて自らが上へ上へと延びようとしてるではないか。ゴーヤがネギを凌駕する、まさにそんな光景であった。いや、我が家のゴーヤに限ったことなのか?よくわからないが、ゴーヤの生命力にひどく感動した。まさに「がんばろう日本。」のスピリットではないか!
 思うに、多額の学費を費やし、どっぷりと(特に母親の)愛情に浸かり根腐れでもおこしたのようなわが子供たちとは対照的だ。コンクリートの上、夏日の当たる劣悪環境、水だけの低コストで立派に成長するゴーヤを私は心から賞賛したかった。
 反抗期真っ只中、左に座れば右斜めに右に座れば左斜めに体勢を変える娘、受験勉強で学費に反比例して在宅時間が激減の長男はいつもお疲れモードでおやじギャクにも
「ちょっとは落ち着いたら。」
冷笑するようになった。子供たちが同行しない限りは、妻も日曜は単独行動を好むようになった。つまり、たそがれおやじ街道まっしぐらの心寂しい家庭環境。そんな日々、ゴーヤの成長はわが子の成長以上に微笑ましいものであった。
ネギでは双方がかわいそう、とネットを取り付けると、腰丈までの高さのネットに四方八方ツルをしっかりと絡ませながらあっというまに成長し、ミニグリーンカーテンと化した。まだまだ、まだまだ、というゴーヤの成長ぶりに圧倒されたが、ネット吊るフックがなく腰丈どまりになった。しかしツルはネットの上まで延びようと苦戦を繰り返し、上が無理なら横へ、と横に横にネットを羽交い絞めし始めた。まさに生への執着。
 唯一の無念はゴーヤの実がつかなかったこと。黄色の小さな花まではついたのだが、結実することはなく、大好物の自家製ゴーヤーのチャンプルを食すことはできなかった。やはり、水をやりすぎたのか。クーラーの室外機からの熱風に負けたのか?種うえの時期が遅かったのか?反省点を逡巡し、来夏への思いをゴーヤに託す。              まあ、いいじゃないか。こんなに勇気と希望をあたえてくれた。ゴーヤ君!私は来年も君を育てるよ。そのときは、もう少し勉強してより良い環境を整えてあげるから。これっては親ばか?根腐れしないよう、愛情も適量にしよう。

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